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Slack のメンションに「さん」は必要かどうか

正直、今まであまり気に留めていなかったことなのだが、じっくり考えてみると面白いトピックだったので文章にすることにした。ちなみに私はどちらでも良いと思うが付ける派だ。

面白いことに、このトピックに関連する主張というのは「さん付けは止めてくれ」ばかりで、反対に「さん付けは気持ち良いですよね、そちらのほうが嬉しいです!」などと言う人は見たことがない。それが一体何故なのか気になったのが今回深堀りしたきっかけだ。

まず、議論の前提として、上司や同僚とのコミュニケーションにおいて敬称を使うのは日本人の基本的なマナーである。相手との距離感や親密度によって省略できる場合もあるが、ここでは敬称が必要なケースにも関わらず、なぜ Slack 上でなら省略できるのかを考えたい。

例として、上司の鈴木さんに次のような質問を対面で直接するとする。

「 鈴木さん、先日の新機能の件でいくつか質問したいので、お時間をいただけますか。」

これを Slack 上ですると次のようになる。

@suzuki 先日の新機能の件でいくつか質問したいので、お時間をいただけますか。

この2つの文の違いは、字面的には「鈴木さん」が「@suzuki」に変化したことであるが、もう少し踏み込んで考えると、その変化は次のような2つの違いを生んでいると思う。

まず1つ目は、読み手の印象だ。文章を声に出して読むとわかりやすいが、Slack のメッセージはさんを省略して呼び捨てにしているので失礼な印象だ。「@suzuki」は、相手の Slack 上の名前であり本名とは異なる場合もるが、本名であれ便宜的なハンドルネームであれ、鈴木さんという人間を指す記号であることに変わりはない。Slack で書かれているのは日本語の文章であり、同じ作法やマナーが適用されるはずなのだから、敬称を省略すると失礼に感じるのだろう。

もう一つの重要な違いは、機能性の変化である。Slack のメンションは、単に「私はあなたに話しかけている」ことを意味するのではなく、相手に通知を飛ばす機能を持つ。この機能を得るためには、メンションの決まったフォーマットに従う必要がある。@ を省略したり、@ に続く相手の名前を勝手にこちら側で変更することはできない。ここで私が注目したいのは、そのメンションの機能を獲得するために、やむを得ず敬称を省略しなければならないかどうか、だ。例えば少し変な例だが、メールでは宛先メールアドレスに敬称を入れることはできない([email protected] さん みたいに)。なぜなら宛先メールアドレスは正しい文字列でなければ相手に届かない ─ 期待する機能を得られないからである。ではメンションはどうかというと、フォーマットさえ守れば挿入場所に制約はなく、文章に自然に混ぜて相手に呼びかけるのに使える。よってメンション機能を手に入れるために敬称を省略せざるを得ない、というわけでもない。

ここまでをまとめると、Slack 上で書いているのはふつうの日本語の文章であり、メンションを使用してもその性質は失われないのだから、Slack 上だからといって敬称を省略できる理由はどこにもない、と言える。

では今度は、視点を変えて Slack というサービスが登場した文脈からこの議論を考えてみたい。

Slack はチャットベースの新しいコミュニケーションツールである。古くからあるメールは広く使われており、たくさんメリットもあるが、無駄な作法が多く非効率的で、やりとりのスピードが遅いという問題がある。Slack はこの問題点を緩和しており、メールのような定型的な挨拶や署名などは不要で、やりとりの速度は基本的に速い。本質的に相手に伝えたいこと、コミュニケーションに集中できる。そのような視点で考えれば、Slack がコミュニケーションを効率的にすることを目指しているにも関わらず、そこにメールにあるような従来的なルールやお作法を持ち込むことはナンセンスな行動と捉えられる。

しかし、敬称を付けることがメールのお作法なのかと問われれば、それは違うと言わざるを得ない。現実でコミュニケーションを取るときに「〇〇部 〇〇課 〇〇様、お世話になっております」とは言わないが、上司相手に話すなら敬称は付けるだろう。「お疲れさまです」の一言も似たようなもので、クッション言葉として添える方が自然な場合が多い。であるならば、やはり私の意見としては付けるほうが自然だろうという結論に至る。

以上で終わりなのだが、最後に身も蓋もないことを言うと、社内で省略する人が多いのであれば、暗黙の了解といえるので省略すればよいだろう。省略できるならそれで良いと思う。ただし、この記事の結論の通り、省略しないのが普通の場所で勝手に省略しているとすれば、それは現実で上司を呼び捨てにするのと同じ、ただの失礼な人だ。

また重要なのはルール決めではないかと思う。個人が「さんなんて付けなくて良いですよ」と主張するのはあまり意味がなく、むしろ声をかける側からすれば、敬称を付けるべきか不要なのか判断するのが面倒なだけだ。組織のルールとして「Slack では敬称は省略しましょう」と表明するのが良いのではないかと思う。